サントリーニ島のクリスマス
 10. 聖なる夜

 今日はクリスマス・イヴだから、さぞかし街もにぎやかだろうと風車小屋を出たのはいいものの、街はいつもよりも静かである。

 通りには人がおらず、レストランもすべて閉まっている。

 街は静かだが、どこの国にも静けさというものが嫌いな寂しがり屋がいるものだ。


 遠くからギリシア独特の演歌のようなメロディが聞こえてきたかと思うと、その音量がだんだん大きくなり、見るからに酒に酔った若い男がカーステレオをフルボリュームにして、かたわらを走り抜けていった。

 サントリーニ島の暴走族といったところか。

 ずいぶん叙情的な暴走族ではあるが。

  叙情的なメロディが遠ざかると、街は再び静けさを取り戻す。

 聖なる夜。

 普段はそっけないポートオフィスの建物も今日は、クリスマスらしい飾りをつけている。


街の中心の広場には、クリスマスのイリュミネーション。

そして、新年を迎える文字。

 広場の隅には、キリスト教のほこらもある。


 ほとんどが正教徒であるギリシアでは、教会には偶像がなく、イコン(聖画)があるだけだが、ここにはキリスト生誕を物語る人形が置いてある。


 そういう意味では、宗教的というより、イベント的な飾りなのかもしれない。

 わらの中には誕生したばかりのイエス・キリストが横たわっている。

 かたわらには聖母マリア。

 その隣にはなぜか背中にこぶのあるラクダまでいる。



 広場を離れて人通りのほとんどない夜の道を風車小屋まで。

 空気は冷たく、空は澄み切っている。
 小さな星が寒さに震えるように瞬いている。

 遠くのほうからかすかに叙情的な演歌のようなメロディが聞こえてくる。

 寂しがり屋の暴走族はまだ家に帰りたくないらしい。


今日はクリスマス・イヴ。