そんなことを考えながらサントリーニ島の街を歩いていると、また例によって道に迷ってしまう。
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まっすぐに見える道は気づかない程度に曲がっていて、直角に見える道の交差は一見わからない程度にずれている。
そして、いたるところによく似た顔をした猫がいる。
この道はさっき通ったような。
あの猫もさっき見たような。
そんなふうにして、サントリーニ島のラビリンスに迷い込んでいく。
無防備なのはぼくのほうなのかもしれない。
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歩き疲れてカフェに入ると、今日はカフェがいつになく混んでいた。
街の中心にあって、めずらしく毎日開いているこのカフェ・クラシコに来るのは今日で3回目だが、テラスの席がすべて埋まってしまっている。
テラス席をあきらめて屋内に入ろうとすると、ぼくに手招きする人がいた。4人がけのテーブル席に並んで腰掛けている男女が、いっしょに座ってくれという感じでぼくを呼んでいる。
こころよく招待に応じて、同席させてもらうことにした。
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2人はギリシア人の親子で、名前はマイケルとクレオパトラ。
マイケルがクリスマスを娘と過ごすために、クレオパトラの住むサントリーニ島に遊びにきたらしい。
マイケルは日本に興味があるらしく、しきりにぼくに質問してくる。
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「日本人は3時間だけ眠るとすぐに工場に働きにいくらしいが本当か」
「いや、そんなことはないですよ」
「たしか20年くらい前に読んだ雑誌にそんなことが書いてあったんだけどな」
マイケルの古い記憶にもとづく古い日本の話。
カフェ・クラシコでは、飲み物を注文すると小さなお菓子(たいていクッキーかチョコレート)がついてくるのだが、今日のお菓子はクリスマスツリーの形をしたチョコレートクッキーだった。
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マイケルの古い記憶にもとづく古い日本の話が続く。
「日本では、空気が汚れていて・・・」
「いや、今はそうでもないですよ」
クリスマスツリーの形をしたチョコレートクッキーを食べながら、ぼくが答える。
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