サントリーニ島のクリスマス
 4. 冬の訪問客

 サントリーニ島の人口は冬の間極端に減少する。

 島の人の話によると、多くの人は冬の間アテネで暮らしているらしい。

 サントリーニ島には冬の間仕事がないから、アテネに出稼ぎに行っているのだろう。
 いやそれとも、アテネの住人が観光客相手の仕事をするために夏の間だけ島にやってくるのだろうか。

 レストランもほとんど休業していて、町の中心部でも開いているところは2、3軒しかない。


 そんなわけでぼくのような観光客でもすぐに常連になってしまうのだが、そのかわり同じような料理を毎日食べることになる。

 冬の間も営業しているレストランが商売熱心かといえばそうでもない。

 店の主人は、オーダーをとるとすぐにいつもの席に戻って新聞を読み始める。

 退屈な新聞記事でもこの島の冬の退屈さを紛らわすには十分らしい。

 レストランを出て街の中心の広場に行くと、銀行のキャッシュディスペンサーの前で頭を抱えている男性がひとり、いや正確に言えば相棒の犬といっしょに座っている。

 こんな静かな島でも、悩みを抱えている人はやはりいるのだろう。

 いやそれとも、退屈しのぎに昼間から飲んだアルコールがまわりすぎたのだろうか。

 島には「オールドポート」と呼ばれる小さな港がある。

 街の中心から階段状の坂道を20分くらい下りていくとその古い港に出る。


 オールドポートに何があるかというと、なにもない。

 いや本当はいろんなものがあるのかもしれないけど、とりあえずそういったいろんなものはすべて冬の間は姿をかくしてしまっている。

 そして、あまり熱心には見えない釣り人が糸をたれている。

 魚を釣るためではなく、おそらく何か他の個人的な目的のために。

 オールドポートからの帰り、島独特の迷路のような細い道を歩いていると、門の上に立ったサンタクロースに出くわした。

 文字通り人気のない通りでは、島の人よりもサンタクロースに会う回数のほうが多い。

 島を離れる人間の代わりに、彼らは冬の間だけサントリーニ島にやってくる。


クリスマスまであと7日。